
現場の「考える力」をどう育てるか
認知症ケアの現場では、利用者の行動や言葉の意味をすぐに理解できるとは限りません。
むしろ、表面的に見える行動の裏側には、過去の生活や役割、本人の思いが複雑に重なっていることが少なくありません。
こうした状況の中で求められるのが「思考力」です。
課題に直面したときに安易な答えに飛びつくのではなく、さまざまな可能性を検討しながら考え続ける力です。
ただし、頭の中だけで考えるのではなく、現場で感じ取った情報を材料に思考を深めていくことが重要になります。
「すっきり解決」の落とし穴
あるグループホームの管理者から、興味深い話を聞きました。
職員同士で「利用者が穏やかに過ごせるケア」を話し合う際、意見がすぐにまとまったケースほど、実際にはうまくいかないことが多いというのです。
一方、意見がぶつかり合い、悩みながら試行錯誤する過程を経たときほど、利用者が落ち着いて過ごせる結果につながることが多いそうです。
これは偶然ではなく、課題の本質に関わる現象です。
人が抱える課題は単純な解決策では済まないことが多く、現場ではつい「簡単に答えを出したい」と思考が短絡しがちです。
たとえば、「決まった時間に外出したがる利用者」に対して、過去の生活歴を手がかりに行動パターンを理解し、通学路を一緒に歩くなどの習慣を作ったとします。
最初は落ち着いても、再び同じ訴えが出てくることもあります。
こうした「すっきり解決」と思った瞬間こそ、思考が停止しやすくなる危険があります。
思考停止の落とし穴を避ける
分かりやすい課題解決のヒントがあると、ついそこで考えが止まる「思考停止」が起きます。
先の例では、利用者の生活歴が課題にピタリと一致したため、多くの職員は「これだ」と即断してしまいました。
しかし、もし「他に背景がないか」と議論を続けていれば、より根本的な解決策が見つかる可能性もあったのです。
また、制約条件による思考停止もあります。
夜間に外出したがる利用者の場合、「深夜なので外出は無理」と考えが固定化し、対応が限定されてしまうことがあります。
しかし、在宅介護の事例では、家族が夜間に付き添い散歩を行っているケースもあります。
制度や組織の制約を当たり前として受け入れてしまうことが、思考停止の背景にあるのです。
このような場合、思考力を発揮するには「どうすればできるか」を考える姿勢が必要です。
夜間の外出に対応する場合、例えば以下のような選択肢が考えられます。
・遅番シフトを調整し、その時間だけ付き添いボランティアを頼む
・自治会の夜回りに同行し、生活歴に沿った役割意識を生じさせる
・夜明け前の畑作業に参加できる方法を検討する
重要なのは、どれが現実的かではなく、思考を止めずにアイデアを出し続けることです。
思考力を鍛える研修の実践例
思考力を伸ばす研修では、現場の課題を題材にすることが有効です。
例えば、写真に写る利用者が鉢植えに手をかけている場合、「昔は畑仕事をしていたのかもしれない」と仮説を立てます。
研修では次の手順を踏みます。
[1]課題を叶える上での「壁」を挙げる(例:車椅子利用、スタッフ不足、農園不在、心疾患リスク)
[2]各自でアイデアを書き出す(実現可能性より思考の広がりを重視)
[3]アイデアを発表し、グループで議論する
[4]発展的に「改善策」や「可能性」を考える
例えば「車椅子でも作業できる野菜」や「スタッフが補助する方法」「家庭菜園スペースの活用」などのアイデアが出ることがあります。
さらに議論の中で「短時間の立位リハビリを活用すれば立ち仕事も可能かもしれない」といった発展案が生まれます。
こうして、利用者の可能性を深く見つめる機会が生まれ、思考力の鍛錬につながります。
思考力が現場に与える効果
思考力を養うことは、単に課題解決能力を高めるだけではありません。
利用者の可能性に目を向けることで、スタッフ自身のやる気や創意工夫も刺激されます。
現場で接した情報を最大限に生かして考え続ける力は、洞察力とセットで発揮されることで、より質の高い認知症ケアを生み出すのです。
介護現場では、「考えること」は決して頭でっかちになることではなく、現場で感じたことを材料に深く考えるプロセスです。
このプロセスを繰り返すことで、スタッフ一人ひとりの思考力は磨かれ、利用者の穏やかな生活を支える力となります。
【お役立ち研修】
実践!認知症ケア研修会2026
実践的!看取りケア研修会
次世代介護マネジメントフォーラム
https://tsuusho.com/managementforum




















